今なぜGHGプロトコル改訂なのか?
今なぜGHGプロトコル改訂なのか?
企業の環境報告とカーボンクレジット取引制度のアップデート
GHGプロトコル改訂の動き
GHGプロトコル(GHG Protocol) は、温室効果ガス排出量の算定・報告をする際に用いられる各種基準(コーポレート基準、スコープ3基準、スコープ2ガイダンス等)である。
この基準は、グローバル企業の気候変動対策に関する情報開示・評価の国際的なイニシアティブ(CDP、RE100、SBT 等)に用いられていることから、国際的なデファクトスタンダードとおり、企業活動報告、政府・地方自治体の排出量統計や、再エネ証書制度設計や再エネ電力取引の基盤となっている。
現在、電力の脱炭素化を進める上で様々な課題が顕在化してきていることを背景として、GHGプロトコルの枠組みを定めるScope 1・2・3の既存3文書全ての抜本的な改訂作業が進められている。
その改訂は、企業や政府・地方自治体の報告にとどまらず、わが国における再エネ評価の枠組みに大きな影響を与えることが予想され、カーボンクレジット取引や再エネ発電・蓄電池投資、ひいては電力システムの在り様も変えてしまいかねない。
従って、GHG Protocol改訂の背景や内容を分析し、わが国の再エネ評価やカーボンクレジット取引・電力システムへの影響を評価し、そこに必要な技術や事業機会を展望することが喫緊の課題である。
そこで株式会社電力シェアリングでは、再エネアワリーマッチング研究所(RE Hourly Matching Institute)を設立し、これに関連する国連・欧米諸機関の議論に積極的に参画することで、一次情報に基づく様々な分析を行い、政府機関・自治体・企業(電力会社・炭素会計サービサー等を含め)に向けた情報発信や個別のアドバイザリーサービスを本格的に開始することとした。
日本経済・社会へのインパクト
GHGプロトコルScope2ガイダンス改訂の重要な柱は、①Hourly Matching手法の導入、➁追加性の担保、③証書の取り扱いの見直しである。
折しも、2024年1月に欧州連合(EU)議会を通過したいわゆるグリーンウオッシュを禁じるグリーンクレイム指令では、オフセット証書による商品・サービスの脱炭素主張が禁止された。今のところ電力オフセットへの言及はないが、「「温室効果ガス・オフセットを透明性のある方法で報告する:オフセットが温室効果ガスの排出「削減」なのか「除去」なのかを峻別して明示し、オフセットの質に関する情報を提供する」」としており、GHG Protocol Scope 2 ガイダンス改訂のねらいと一致する部分がある。
また、EUでは、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける新たな仕組みである国境炭素調整措置(CBAM)の導入も準備されている。
これらを勘案すれば、近未来において、あくまでも様々な仮定がシンクロナイズされて現実のものになった時の話ではあるが、GHGプロトコルScope 2ガイダンスに、再エネ取引でのHourly Matching手法が盛り込まれ、日本国内の諸制度がその基準に満たないと判断された場合、日本基準での再エネ電力を用いて生産された自動車や鉄鋼・食品などの製品が、欧州基準を満たさないグリーンウオッシュ品とみなされ、欧州への輸出を制限される可能性もあり得ると思料する。
また、GHG Protocol Scope 2 ガイダンス改訂の議論を主導する主体にも目を向ける必要がある。それは、当然のことながら、従来から環境分野で主体的な枠割を担ってきたCDP(Carbon Disclosure Projectは英国の非政府組織(NGO)であり、投資家、企業、国家、地域、都市が自らの環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを提供する)やI-RECなどの諸機関であるが、加えて、GoogleやMicrosoftなどのGAFAMの一角や、ブロックチェーン技術などを有する気候変動テックのPowerledger社などのDX技術を有する企業等も参画している。
安全保障の視点も含めて、日本の産官学もこの動きを注視しながら、積極的に基準作りやその適用に参画すべきであると考える。
当研究所は、一般にこの国外での動きに積極的に参画し、欧米の主要ステークホルダーとの緊密な関係を構築し、情報収集・分析を行い、それらの情報を当該ウエブサイトやウエビナー等で積極的に公開・発信している。
また、国内各企業・シンクタンク・環境報告や炭素会計サービスを手掛ける事業者や行政機関への個別のアドバイザリーサービスを提供しているところである。
(参考)GHGプロトコルについて
目的:オープンで包括的なプロセスを通じて、国際的に認められたGHG排出量の算定と報告の基準を開発し、その利用を促進することである。事業者、NGO、政府機関を含む様々な利害関係者が、算定及び報告の理論に裏打ちされた信頼性のあるGHGの評価方法の開発、全世界規模での運用からの情報の説明と報告、GHG排出量の管理及び削減のための効果的な戦略の構築、他の気候イニシアチブや報告基準を補完するGHGに関する情報の提供を支援することを目的としている。
運営者:1998年に世界環境経済人協議会(World Business Council for Sustainable Development: WBCSD)と世界資源研究所(WorldResource Institute: WRI)により共同で設立された。事業者、NGO、政府機関など多岐にわたる利害関係者の協力により作成され、GHG排出量の算定と報告に関する貴重な知識源として提供されている。
概要:GHGプロトコルは事業者の排出量の算定及び報告の基準を提供し、GHGプロトコルのウェブサイトで利用可能な多数のGHG計算ツールによって補完されている。これらの基準、ガイダンス、及びツールは、事業者や他の組織がGHGインベントリを開発し、GHGの影響を明確にし、GHG排出量の管理及び削減のための戦略を構築するのを助けている。