GHGプロトコルでは、SCOPE2ガイダンスに改訂作業が進められており、その重要項目がロケーション基準への時間帯別排出係数の導入である。
株式会社電力シェアリングでは、独自の特許技術を用いて、AIを用いたアルゴリズムにより、全国10の送配電網毎の、時間帯別CO2排出係数の実績値算出と予測サービスを提供している。
この技術がどのように活用されるかについて以下に解説する。
GHG Protocol Scope 2 ガイダンス改訂の動き
改訂が予定されているGHG Protocol Scope 2 ガイダンスにおいては、企業が使用する電力に関連するCO2排出量をより正確に算定できるように、ロケーションベースの炭素強度の粒度を時間帯ごとに上げることが求められると予測する。
この改訂が必要とされる理由は、再生可能エネルギーの比率が時間によって大きく変動することにある。
日中は太陽光発電が増えるため炭素強度が低下するが、夜間は化石燃料に依存するため炭素強度が高くなる。
この時間格差は、企業が自身の炭素足跡を評価し削減策を講じる際に誤差を生じさせる。また、一般的な年間平均の排出係数を使用することで、実際の環境負荷が過小評価される問題が指摘されている。これらの問題を解決するため、より詳細な時間帯別の炭素強度の提供が必要となっている。
SCOPE 2ガイダンスの改訂を主張しているのは、主に欧米の環境団体や持続可能性を重視する企業である。
具体的には、世界資源研究所(WRI)やCDP(旧称カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)などの組織が先導している。これらの団体は、企業が炭素排出量を正確に把握し、削減に向けた行動を促すためには、時間帯ごとの炭素強度の情報が不可欠であると主張している。その結果、多くの企業がこの動きに賛同し、自社の環境戦略の改善にこのデータを活用し始めている。
世界の動向
カリフォルニア州においては、州内の電力網運用を担うカリフォルニア独立系統運用機構が、電力供給の時間帯別の変動の追跡及び再生可能エネルギーの導入の支援に注力されている。特定の時間帯における電力消費の炭素強度を評価し、よりクリーンな電力の購入を促進することで、地域や時期によって変動する炭素排出係数をリアルタイムで追跡する新しいツールが開発された。このツールは、電力消費者や大手企業が自身の炭素足跡を正確に評価し、削減するのに役立てられている。
出典: https://www.caiso.com/todaysoutlook/Pages/emissions.html
日本での対応
日本においては、電力網のCO2排出係数に関する透明性が高まりつつあるが、カリフォルニアや欧州の例のような時間帯別の炭素強度の公開はまだ一般的でない。日本の旧一般電気事業者(送配電会社)は時間帯別の電源別発電量を公表しているものの、詳細な発電所や系統連系での輸出入データがないと、消費者が炭素排出に基づいて電力を選択することは難しい状況である。
このため、日本の企業や消費者が炭素排出を正確に評価し、削減するためには、自らモデルを構築して計算する必要があるとされている。
当社独自のソリューション
そこで、株式会社電力シェアリングでは、独自の特許技術を用いて、改訂される新たなGHGプロトコルSCOPE2ガイダンスにおけるロケーション基準を先取りし、独自のアルゴリズムによる、全国10の送配電網毎の、時間帯別CO2排出係数の実績値算出とAIによる予測を行っている。
同技術を用いて、環境省ナッジ実証を行っており、その有効性を検証した。
環境省ウエブサイトにおいて、本技術は以下の通り紹介されている。
クライメートテック(気候テック)のスタートアップでもある株式会社電力シェアリングが開発した時間帯別CO2排出係数に関する我が国発の特許技術を用い、炭素会計の考え方に基づいて、電力の使用に伴うCO2排出量及びその削減量を精緻に算定し、家庭毎に評価・スコアリングすることにより、節電に加え、昼間のEV利用等、再生可能エネルギーの比率の高い時間帯に電力の使用をシフトさせるナッジ手法を構築し、検証する予定です。
当研究所では、上記の政府事業FSの成果に基づき、全国10の送配電網毎の、時間帯別CO2排出係数の実績値算出とAIによる予測に関するサービスの提供を2024年4月より開始している。
今後GHG Protocol Scope 2 ガイダンスの改訂が現実のものとなれば、上記手法が義務化される可能性もある。この場合、その適用は早くても2~3年後であると予想されるものの、義務化を待たずに、GoogleやMicrosoftといった先進的企業は、自主的に当該基準を導入し、世界のサプライチェーンでの取引先にその基準の遵守を求めてくる可能性は十分あり、日本企業においてもその準備を進めておいた方が良いと考える。