背景:排出削減努力と効果を測定し、比較する客観的指標の必要性
GHG Protocol Scope 2 ガイダンスに関する調査回答の詳細サマリー(2023年11月)(以下調査サマリー)には以下の指摘がなされている。
「クリーンエネルギーが豊富な時間帯にはエネルギー消費を増やし、送電網がより炭素集約的な資源に依存する時間帯にはエネルギー消費を減らすよう最適化する負荷管理戦略も考慮する。」
そもそもScope 2 ガイダンスの目的は、「標準化されたアプローチと原則を用いることで、企業(これは家庭にも当てはまるので以下家庭も付記する(当社付記))が排出量を正確かつ公正に把握できるGHGインベントリーの作成を支援する。」「GHG排出量を管理・削減するための効果的な戦略を構築するための情報をビジネスに提供する。」ことを含んでいる。
また、現行のGHGプロトコル・スコープ2ガイダンスの2.1項では、スコープ2の会計と報告のビジネス目標について、さらに概要を説明している。企業基準およびスコープ3基準との整合性から、電力を消費する企業は以下を目指すことができるとしている。
- 購入・消費電力からの排出に関連するリスクと機会を特定し、理解する。
- 社内のGHG削減機会を特定し、削減目標を設定し、実績を追跡する。
- エネルギー供給業者およびパートナーをGHG管理に関与させる
- 透明性のある公開報告を通じて、ステークホルダーの情報と企業の評判を高める。
従って、今般の改訂においては、よりきめ細かな排出量の「算定」を行うことで、企業や家庭のよりきめ細かな排出「削減」を促し、その効果を客観的に測定することが意図されているといってもよいだろう。また、電力供給者は、その的確な管理を支援することが求められる可能性がある。
調査サマリーでは、「ロケーションベース手法の粒度を高める根拠」として、「回答者の中には、年間活動データと年間グリッド平均排出量データをマッチングさせた現在のロケーションベースの方法は、組織のグリッドベースのGHG排出量を正確に説明するのに十分な粒度ではなく、ロードシフトや全体的な消費パターンの変更といった企業行動のインセンティブにもならないことを示す2022年の研究に言及したものもいた。」としている。
調査サマリーでは、「生産に基づく排出係数ではなく、消費に基づく排出係数を使用する。」そして、より具体的には、「回答者の中には、ある送電網のテリトリー内の発電量のみを使用するのではなく、送電網の境界を越えた正味の物理的エネルギーの輸出入による潜在的に重大な影響を適切に反映するために、生産量とは対照的に、電力消費量の排出係数を要求する必要があるとの意見もあった。これは、エンドユーザーの消費電力に関連する排出量を正確に表すために必要である。」と記述している。
これらを鑑みれば、今般の改訂がなされた場合、各国政規制当局は、将来的には、各企業や家庭の排出削減効果やその努力を客観的な指標で評価すととともに、電力供給者がその管理や支援をどのように行っているかを、やはり客観的な指標で評価し、比較することが求められる可能性がある。
事実、調査サマリーにおいては、「ガイダンスの目的に関するフィードバック」として以下が言及されている。
- 正確な会計と報告を通じて脱炭素化を促進する。
- 質の高い排出削減と除去のための行動と戦略を優先し、推進する。
- 報告組織間の比較可能性
そこで、電力シェアリングでは、消費と発電(オンサイト・オフサイト)を一体的に、その排出削減努力と効果を客観的に測定し、比較し、取引する技術を開発し、特許を取得している。その概要を以下に示す。なお、電力シェアリングでは、この日本発の技術広く世界に発信することを目的として、先進的な取り組みに賛同する需要家・電力小売会社・炭素会計管理サービス会社等にライセンス供与を行っている。
客観的指標の開発
電力シェアリングでは、排出削減努力と効果を測定し、比較する客観的指標として、期間・加重平均炭素原単位(kG-CO2/kWh)の算出と、企業や家庭の炭素効率性や、排出削減効果を絶対・相対評価し、その環境価値を取引することで、金銭的・非金銭的インセンティブを付与し、企業や家庭の行動変容を促す手法を実用化している。
既に産業用需要家や電力供給事業者・炭素会計サービサーを対象とした商用化を果たすとともに、環境省ナッジ実証事業として、一般家庭(EVユーザーやプロシューマを含む)向けの行動変容に向けた大規模社会実証実験を行っており、その事業モデルの有効性が確認されれば、家庭向けサービスの商用化も行う計画である。
客観的指標の概要
電力消費量別のCO2排出量を、各需要家の電力消費量(kWh)と期間・加重平均炭素原単位(kG-CO2/kWh)に因数分解して、期間・加重平均需要家CO2排出係数(kG-CO2/kWh)を抽出する。
これにより、各需要家のCO2排出削減行動を、電力消費量(kWh)の削減と、期間・加重平均需要家CO2排出係数(kG-CO2/kWh)の削減に分けて管理・評価・取引することが可能となり、その成果の可視化により、より具体的な行動変容を促すことが可能となる。
期間・加重平均需要家CO2排出係数(kG-CO2/kWh)の削減は、送配電網時間帯別CO2排出係数(kG-CO2/kWh)の低い、すなわち概ね再エネ比率の高い時間帯への消費のタイムシフトによって実現する。
それは、ガソリン車の運転における、いわゆる「エコドライブ」に近い。ガソリン消費量(ℓ)を減らすには、走行距離(km)を減らすことはもちろん、燃費(km/ℓ)を上げることでも達成される。
例えば、運送業を営むA社とB社があったとして、走行距離は業務量によって異なるのだから単純比較は難しいが、燃費比較は相対的に容易である。事業者は、燃費の良い車の導入と、運転手のエコドライブ、すなわち急発進や急ブレーキといった運転の仕方の工夫を行うことで、全車両・全期間平均の燃費を上げることができる。
電力消費の再エネ比率の高い時間へのシフト(昼シフト)も同様である。当社ではその達成努力の道筋を、①自律手動、➁自律自動、③他律自動と分類して、それぞれの行動変容モデルを構築している。
このうち自律自動(①)は、エコドライブのように、電力負荷(例えば洗濯機や乾燥機)の使用をお日さまが照っている時間にずらす行為である。また、自律自動(➁)は、例えば、タイマーをセットして、給湯器の作動時間をずらす行為である。さらに、他律自動(③)は、例えば、外部のアグリゲーターがVPPの一環として、電力需給のひっ迫時には電力消費を抑制(下げDR)や、余剰時には電力消費を増加(上げDR)を遠隔・リアルタイム。自動で制御する行為である。
期間・加重平均需要家CO2排出係数(kG-CO2/kWh)での需要家の脱炭素行動の管理は、これらの組合せで、負荷の平準化と再エネ供給追従を効果的に促進するための、効果的なツールとなり得る。
日本発の新技術として世界に発信
電力シェアリングでは、この手法を積極的に海外に発信し、国際的な展開を図っている。国連24/7 CFE Compactは、その活動の5原則の1つとして、「テクノロジー・インクルーシブ:ゼロ・カーボン電力システムをできるだけ早く構築する必要性を認識する。すべてのカーボン・フリー・エネルギー技術は、この未来を創造する役割を果たすことができる。」としており、国連24/7 CFE Compactは、広報誌で当社の同技術を好事例として紹介し、Energy Tagもケーススタディとして取り上げている。
GHG調査サマリー:追加ガイダンス、新技術および使用例に関するフィードバック
GHG調査サマリーは、「ほぼすべての回答者が、スコープ2ガイダ ンスには、様々な状況における特定のスコープ2 排出量計算ステップの実行方法について、更新され、拡大された明確な説明や新しいガイダンスが有益であるとの意見に同意した。また、新たな技術、データの種類、その他のトピックに関連する提案もフィードバックされた。」と記述している。
GHG Protocol 事務局は、Scope 2 ガイダンス改訂にあたってのワークショップを開催しているが、その中で、Hourly Matchig等の新手法を実用化するために必要となる新技術に特化したガイダンス(あるいは準ずるドキュメント)の発行を示唆している。
同ワークショップで示された以下の資料のなかで、求められる技術の具体例を以下に7つ挙げている。
① エネルギー貯蔵技術(ハードインフラ技術)
➁ より地理的に詳細なグリッド排出データ★
③ エネルギーキャリアとしての水素(ハードインフラ技術)
④ より時間粒度の細かいグリッド排出データ★
⑤ EV充電とグリッド統合★
⑥ 需要側の負荷管理★
⑦ 高度電力計インフラ★
特筆すべきは、ハードインフラ技術は、①エネルギー貯蔵技術と③エネルギーキャリアとしての水素の2つのみで、と★(当社)を付記した残りの5つはソフト・データ管理技術であるということである。
残りの5つの技術、すなわち、②より地理的に詳細なグリッド排出データ、④より時間粒度の細かいグリッド排出データ、⑤EV充電とグリッド統合、⑥需要側の負荷管理、⑦高度電力計インフラは、スマートメーター等のビッグデータをAIで解析し、より詳細なグリッド排出データを測定し、上記の手法を用いて需要側の負荷管理を行うという点で、全て当社の特許技術に関わる事項とも言える。従って、当社は、国内外での同技術のライセンス供与により、世界でのHourly Matching手法のより実践的な普及に貢献していきたいと考えている。