(C.4)粒度の精緻化に関する意見
(C.4)粒度の精緻化に関する意見
スコープ2ガイダンスの改訂に関する調査
ここで、前回の概要に引き続き、(C-4)粒度の精緻化に関する意見について詳説する。
C.4. Granular, specific requirements or encouragement:粒度の精緻化についてのリクエスト
スコープ2において、より具体的な要求や奨励を求める フィードバックのほとんどは、粒度の細かい要求や奨励に 焦点を当てたものであった。
粒度は、時間単位で一致する活動データと排出係数と定義される傾向があり、また、同じ入札ゾーン、バランシング機関、または同様の基準など、物理的に同じ送電網境界内の発電と負荷を一致させる市場境界を使用している。
調査のフィードバックには、場所ベースと市場ベースの両方の方法において、粒度を大きくするための提案が含まれていた。
解説:「Granular粒度の高い」という表現は今次改訂で多用されている。粒度とは、時間軸では、一時間毎の電力消費量と発電量の計測を意味することが多く、空間軸では、近接性を意味することが多い。近接性では、特に、同じ送配電網内での電力の発電と消費のマッチングを意味することが多い、これは国連24/7cおよびEnergy Tagの提案内容と一致している。この点からも、関係者のヒアリング結果と重ね合わせれば、GHGプロトコル改訂・国連24/7c・Energy Tagは三位一体で同時進行していると当研究所は思料している。
国連24/7cおよびEnergy Tagでは、当文書でのHourly Matchingあるいは時間精度という表現を、「Time-matched procurement」(時間性のあった電力調達)と表現し、以下のように記述している( 24/7 CFE focuses on matching each hour of electricity consumption with carbon-free electricity generation. Hourly matching helps connect clean energy purchasing to underlying electricity consumption)
一方、空間的近接性の担保を、「Local procurement」(現地での電力調達)と表現し、以下のように記述している。( 24/7 CFE means purchasing clean energy on the local/regional electricity grids where electricity consumption occurs. This is the only way to drive the electricity-related emissions that a consumer is directly responsible for to zero.)
国連24/7cの5大原則のうちの2つの原則
ロケーションベース手法の粒度を上げる理由 回答者の中には、年間活動データと年間グリッド平均排出量データをマッチングさせた現在のロケーションベース手法は、組織のグリッドベースのGHG排出量を正確に把握するには粒度が足りず、また、全体的な負荷シフトや消費パターンの変更といった企業行動のインセンティブにもならないことを示した2022年の研究に言及した人もいた。
解説:
わが国で一般化されつつあるコーポレートPPAには、需要者の最大電力消費量が、どの時間帯においても最大発電量を上回らないように契約を仕組む手法が一般的である一方で、夜間の火力発電所の発電による電力消費に、昼間に余剰に発電した太陽光発電により創出される非化石証書に引き当てる手法が用いられることもある。このような手法は、上記の再エネアワリーマッチングの規則に反するものとして扱われる可能性があることに留意が必要である。
加えて、同一送配電網内にない発電所と需要者をマッチングさせるバーチャルコーポレートPPAも欧米で問題視されており(Energy Tagは種々のプレゼンテーションで特にこの点を問題提起している)、やはり上記原則が適用された場合には、規則に反するものとして取り扱われる可能性があることに留意が必要である。
一方で、当該原則の性急な導入に反対する「現実派」の声も多くあり、仮にこの原則が導入されたとしても、一定の経過措置や、グランドファーザー条項が適用される可能性もある。特にコーポレートPPAは10年超の長期契約である場合もあり、新規の契約締結に当たっては、この議論の動向を慎重に見極めるべきである。
これらの意見では、場所ベースの算定は、パワーフローモデリングと整合するように、物理的に電力が供給される地理的な境界において、時間単位で行われるべきであると提案された。市場ベースの手法の粒度を上げる根拠 市場ベースの品質基準要件の粒度を上げる根拠として、回答者の多くは、
(i)現行のスコープ2ガイダンスでは、明確なグローバルな排出削減効果がないまま、市場ベースの排出削減の主張を認めていること、
(ii)スコープ2の排出量報告は、正確性、説明責任、継続的な受け入れを確保するために、現実の排出削減量とより整合性がとれていなければならない、
という立場を反映している。
また、このような枠組みは、直感的に理解できるものでなければならない(例えば、発電機と消費者の間の合理的なグリッド接続を要求する、太陽光エネルギーの使用は日中のみ主張する、など)。
このような課題に対処するため、よりきめ細かな会計アプローチを提案する組織の多くは、IEA、ベルリン工科大学、プリンストン大学、フィレンツェ規制大学院を含む、増加しつつある研究結果を参照している。
この研究は、一般的に、新しい資産から供給される電力が、同じ「供給可能な」グリッド上で同じ時間帯に供給されることは、消費者のバリューチェーンにおいてゼロカーボン電力供給を保証するだけでなく、システムレベルでも排出量を削減するという主張を支持している。
また、ENTSO-Eを通じた欧州のTSOによる、よりきめ細かな原産地保証(EAC)メカニズムが「完全に脱炭素化された電力系統への効果的な貢献を確保するために必要である」と強調する発言も、よりきめ細かな要件を奨励するコメントとして挙げられている。
上記の考察に基づき、この新しいきめ細かな品質基準要求事項の支持者は、市場ベースの排出量主張を組織のバリューチェーン排出量と整合させ、GHGプロトコルのコーポレートスタンダードと整合性のある帰属方法論を用いて行う変更を提案している。また、支持者は、詳細な時間単位での排出量算定方法を用いることで、ゼロエミッションの電力使用を主張するのに適したシステムが構築されると指摘している。
重要なことは、この算定方法は、そのような調達行動がシステムレベルの排出量削減につながることを実証する証拠に基づく(すなわち、結果的評価に裏付けられた帰属的または配分的な方法論を用いる)ことである。
このような修正を提案した分野には、活動データ、排出係数、品質基準への対応が含まれる。
きめ細かな市場境界線 市場境界線の品質基準要件について、より具体的な要件を求める回答は、概ね上記のきめ細かさに関する議論と一致した。
市場境界をどの程度厳しくするかについては、地域の送電網と相互接続された送電網システムを使用するものから、パワーフローモデル、輻輳価格分析、または類似のアプローチを使用して、送電可能性を厳密に実証するものまで様々であった。
このような変更の理由は、現在の品質基準が、組織のバリューチェーン排出量をもっともらしく表すことができないという懸念、すなわち、エネルギー生産の属性(すなわち、スコープ2インベントリで使用されるEAC)の主張される使用は、その属性を主張する場所にエネルギーを合理的に供給することができる発電設備に由来していなければならないということに焦点が当てられている。
この立場はまた、報告組織によるGHGインベントリ排出削減の主張を、実際の大気排出削減と整合させることと、しばしば関連していた。同じような例が、しばしば提示された。
風力発電施設が1つのEACを発生させる。遠く離れた異なるグリッド地域にある2つの異なるビル所有者が、その風力EACの購入を検討している。どちらの組織がそのEACを購入するかによって、同じEACでも2つの組織のスコープ2インベントリでGHG排出削減の大きさが異なることになる。
これは、風力発電機の地域別系統排出原単位と、2つの異なる場所での系統負荷に違いがあるためである(例えば、石炭の多い地域にあるビルAのスコープ2合計は、よりクリーンな地域にあるビルBのものよりも低下する)。
EACを、その消費を主張する負荷と同じ供給可能市場バウンダリー内の発電から調達することを要求すれば、このような人為的な結果を緩和することができる。
なお、セクションE「新たな排出影響報告要件の導入に関するフィードバック」では、排出影響計 算に関する調査のフィードバックについて議論している。
きめ細かなヴィンテージ要件 ヴィンテージ品質基準要件に関するより具体的な要件を求める回答は、より具体的な市場 境界に関する同様の理由と同様に、先に示したきめ細かさに関する議論(C.4.項)と概ね一致し ている。
1時間ごとのヴィンテージ要件を支持する回答は、組織の電力消費に関連する排出量をより正確に推定し、組織のクリーン電力購入と実際の電力消費との間に、より緊密な関連性を持たせることができると指摘している。
この結果は、電力消費に関連する排出量は、電力が消費される時間帯によって、その時間帯に送電網に電力を供給する資源の組み合わせによって大きく変化するという前提で支持された。
他の回答者は、スコープ2でEACは同じ季節、月、日中に償還されなければならないと規定すべきであるとし、一般的には、より短い期間の方が長い期間よりも正確であると考えられるが、市場導入のためには、年単位からより厳格なヴィンテージ要件への移行期間が必要であろうと指摘した。
きめ細かな要件の実現可能性に関する考察
より具体的できめ細かな報告要件を支持する意見の大半は、そのような移行に固有の課題を認識する一方で、上記の理由からそのような変更が必要であることを主張している。
移行期間を管理するためのいくつかの選択肢が提示された。最初のステップとしては、ヴィンテージ要件が年単位から月単位、月単位から時間単位へと段階的に導入される段階的導入期間や、新興の政策プログラムや規制当局が採用している移行と同様に、市場の境界がグリッド地域と一致するように移行することなどが挙げられた。
時間単位の会計をより利用しやすくするため、年単位または月単位のデータしか入手できない場合、標準化された負荷・発電曲線をデフォルトとして使用することを提案する回答者もいた。
このスコープ2ガイダンスに関する調査回答の詳細なサマリー(2023年11月)は、対象範囲にギャップがある場合に化石燃料由来の排出量を定量化できるようにするための提案である。
回答者の中には、ANSIのような既存の基準では、時 間ごとの消費量データを導入するための方法論が既に公表さ れており、時間ごとの計測が困難な場合には、既定のデー タを設定することが可能であることを指摘する者もいた。
また、きめ細かなデータの実装を利用しやすくする様々な新しい会計ソフトウエアツールを指摘する回答者もいた。