ナッジ実証事業のねらい:産業用で実用化しているモデルを2025年GHG Protocol Scope 2 ガイダンス改訂による法規制のアップデートを先取りする
産業用では、各需要家のCO2排出削減行動を、電力消費量(kWh)の削減と、期間・加重平均需要家CO2排出係数(kG-CO2/kWh)の削減に分けて管理・評価する当社技術を、ボランティアベースでの先駆的な企業向けに世界に先駆けて商用化を果たした。
一方で、わが国における家庭部門では、その商用化・社会実装に当たっては、法規制の改正を待つ必要がある。それは、産業用と異なり、法規制に先行してまで追加出費を厭わない消費者の数は限定されているからである。しかし、GHG Protocol Scope 2 ガイダンスは2024年中にドラフトが策定・公開され、早ければ2025年にも確定することから、2026年に商用化を図ることを検討しており、環境省ナッジ実証事業で、その法規制の改正を前提としたナッジモデルの構築を進めている。
当該技術に関して、電力シェアリングでは、「住まいの省エネナッジ実証実験」と「EV昼充電ナッジ実証実験」を進めており、ここでは、このうち「住まいの省エネナッジ実証実験」を紹介する。
「住まいの省エネナッジ実証実験」の目的は、世帯のエネルギーの使用実態や省エネ行動の実施状況等をデジタルで客観的に収集した上で、精緻なCO2排出削減効果をAIの活用等により高度に解析し、国民に対して電力負荷毎の使用履歴や将来の使用予測を見える化し、行動に応じてナッジ等の行動科学の知見を活用した金銭的・非金銭的インセンティブを付与する等、一人ひとりに合った快適でエコなライフスタイルを提案し、無理なく持続する、脱炭素に向けた高度な行動変容を促進するBI-Techモデルを構築し、ランダム化比較試験等(RCT)の手法を用いて実証することにある。
これは、当社が、令和4年度から実施している「ナッジ×デジタルによる脱炭素型ライフスタイル転換促進事業」で行っているが、令和4年度には、金銭的及び非金銭的インセンティブが節電行動に与える効果に関する予備的な実証実験行い、金銭的インセンティブにより、4.3%の追加的な節電・省CO2効果が統計的有意に実証された。以下にその概要を示す。
■ 実証実験実施期間
令和4年11月から12月
■ 実証実験参加世帯及び介入内容
調査会社のモニタのうち、中部電力管内に居住するおよそ700世帯を無作為に以下の3つのグループに割当てた。
30分毎の電力使用量の過去2年間分の実績データの提供を受けてAIを用いて解析し、実証実験の実施期間の間に各世帯の日々の予測電力使用量や家電等の電気機器毎の推定電力消費量を提示して節電を依頼するとともに、日々の省エネ行動の報告を求め、省エネ行動の実施数に応じたランキングを表示するグループ(介入群1)
介入群1の介入内容に加え、日々の電力使用量の実績が予測電力使用量を下回った場合に金銭的インセンティブを提供するグループ(介入群2)
比較対象としてナッジを提供しないグループ(対照群)
■ 用いたAIの概要
以下の2種類の予測や解析を目的としてAIを活用した。
・過去2年間の電力使用量及び気象データ、現在の気象予報並びに各世帯の属性情報等から、電力使用量を予測(図1)
・電力使用量の機器分離技術と機械学習を用いて家電等の電気機器毎の推定電力消費量を解析(図2)
図1:電力使用量の予測の例
https://www.env.go.jp/content/000145287.png
図2:電気機器毎の電力消費用の推定の例
https://www.env.go.jp/content/000145288.png
■ 結果
介入群1と介入群2の間の比較において、金銭的インセンティブの追加により4.3%の追加的な節電・省CO2効果が統計的有意に実証された。一方で、対照群と介入群2の間の比較においては、介入により電力使用量が2.7%減少する傾向が見られたが、統計的有意差は検出されなかった。
令和6年度の当社技術実証
令和7年度以降の実証事業の方向性
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