電力炭素会計と企業報告の精緻化の方向性
電力炭素会計と企業報告の精緻化の方向性
GHGプロトコル改訂の影響
~環境ビジネスのグレートリセットへ万全の準備と対応を
近年、日本においても、先進的な大企業を中心に積極的な環境報告や情報開示が行われるようになってきています。
事業活動で排出するCO2の量の多くは電力消費によるもので、製造業では6~7割となることも珍しくありません。従って、その排出量をルールに基づいてしっかりと算定すると同時に、その排出削減のための戦略を客観的なデータを使って立てていくことが大変重要です。
そのような中で、電力消費によるCO2排出量の算定に関して、大きく見直していこうという機運が欧米で高まっていて、日本企業も無縁ではいられない状況にあります。
ところがこうした動きは、日本ではあまり大きな議論になっておらず、ある時突然新しいやり方で計算する必要に迫られることにもなりかねません。
そこで、電力シェアリングとアワリーマッチング研究所では、こうした情報やその対処の仕方について、当ポータルサイトや個別アドバイザリーにより国内外に向けて積極的に発信してまいります。
GHG Protocol Scope 2 ガイダンス改訂の動き
電力消費によるCO2排出量は、わが国のほぼ全ての企業の環境報告書や、炭素会計システムでは、年間を通じた電力使用量に、電力1kWh当たりのCO2排出量(排出係数)をかけて算出しています。
しかし、その単純な算定方法が多くの問題を引き起こしていて、時間帯別の排出係数やアワリーマッチングという手法を用いて、より正確に排出量を計算するような主張が欧米では主流化しつつあります。
こうした中で、現在GHG Protocol Scope 2 ガイダンスの見直し作業が行われて、それらが新しいガイダンスに盛り込まれる可能性が高まっています。
GoogleやMicrosoftの積極的な活動
さらに、GoogleはEUにおけるアワリーマッチングやその手法を用いたタイムスタンプ付き証書取引の法制化を目的として、積極的にロビー活動を行っています。
こうした欧米の動向は日本企業にも無縁ではいられないでしょう。日本においても世界企業の再エネ調達やそのサプライチェーン全体への影響が予想されます。特に、SCOPE 3における上流および下流事業者に対してもアワリーマッチングを用いた再エネ化の報告を要求する動きが出てくる可能性があります。
GHG Protocol Scope 2 ガイダンス改訂の方向性
特に企業の電力消費によるCO2排出量の算定をより精緻に行うための2つのルール変更の議論に注意を向ける必要があります。
第一のルール変更は、時間帯毎に排出量を算定することです。これは送配電網から供給される電力を発電するための発電所での平均CO2排出量(送配電網排出係数)が、時間毎に大きく変動することによるものです。つまり「いつ電気を使うか?」が重要になってきます。
第二のルール変更は、場所ごとに排出量を算定することです。先ほどの送配電網排出係数が、場所により大きく異なることによるものです。つまり「どこで電気を使うか?」が重要になってきます。
この2つのルール変更のことを「ロケーション基準の精緻化」と呼びます。
第三のルール変更は、契約(電気料金メニュー)の選択にかかわることです。例えば、電力小売会社から「再エネ電気料金メニュー」を選択すると評価が高まるというものです。ただし、一つ気を付ける必要があるのは、「再エネ電気料金」の定義です。多くの電気料金メニューでは「実質再エネ電気」と称して、再エネ証書を火力発電などCO2を排出する電気と組み合わせることでCO2を出していないと主張しています。これは現在の日本の法制度では認められているのですが、この「再エネ証書」の運用をより厳しくしようという動きがあります。また、例えばかなり前に建設されたダム式の水力発電所の電気を使うメニューもありますが、「古くに建設された再エネ発電所での電気はCO2ゼロとは認めない」との議論もあります。従って、「どの再エネ電気料金メニューを選ぶか?」が重要になってくる可能性があります。このルール変更のことを「マーケット基準の精緻化」と呼びます。
第四のルール変更は、上記の「ロケーション基準」と「マーケット基準」のどちらを用いて、企業のCO2排出量を算定し、外部に報告するかについてです。これについては厳しいルールがあるのですが、そのルールを柔軟に解釈して、簡便な「マーケット基準」のみでしか報告していないケースが特に日本で多くみられていることが問題視されています。従って、上記の2つの基準にきちんと従うことが求められるようになります。このルール変更のことを「二元報告の見直し」と呼びます。
第五のルール変更は、サプライチェーンのライフサイクルアセスメントに関わることです。例えば、ある企業が工場で電気を使って製品を作る場合、その電力消費によるCO2排出量を算定して、個別の商品ごとにどの程度CO2を排出したかを報告する制度があります。今までは、かなりアバウトに算定しても許されていたのですが、上記の4つのルール変更をご覧いただければお判りの通り、今般の改訂で、これを厳格に算定する必要が出てきます。さらに、しっかり算定した後に、例えば植林活動によってCO2排出量を削減するオフセット証書を用いて、その排出量を打ち消す運用も、下手をすると「グリーンウオッシュ」と批判される可能性も出ています。これを「スコープ2とスコープ3の接続性強化」と呼びます。
一般的な企業は生産活動や、それ以外の活動で大量の電力を消費しています。CO2を排出しているのは遠隔地の発電所であり、実感もなく、また電力システムは大変複雑なのでなかなか理解しずらいものです。
しかし、電力会社など外部任せにしておくと、いくらお金を出しても、新基準に適合する「質の高い再エネ電気」を入手できない可能性もあり、それは企業の存続に関わる一大事です。下手をすると工場や事業所の立地自体から再考すべき必要に迫られる可能性すらあります。
一方で、この改訂後の新基準適合の難易度は高く、そう簡単にクリアできるものでもないので、真摯に「質の高い環境活動」に向き合うことは、企業の評判を高めることにもつながり、むしろ守りの環境経営から攻めの環境経営を目的として、この改訂を好機ととらえてもよいかもしれません。
その意味でも、プロトコル改訂の動向を注視し、その影響を分析し、適切な準備・対応を進めることが大変重要であると考えます。
アワリーマッチング研究所では、こうした企業や団体との直接的なコミュニケーションを通じてその最新動向を分析し、この情報ポータルで国内外に情報発信しています。
また、こうした知見や当社独自の特許技術を用いて、個別企業への新しい基準による電力消費の夜排出量の影響の精緻な調査・分析や、積極的な削減戦略の策定・管理についてアドバイスを行っています。
も大きく改正CO2排出に関わる全ての制度や事業構造が大きく変革される可能性が高いのも
を定めるScope 1・2・3の既存3文書全ての抜本的な改訂作業が進められている。は、世界環境経済人協議会(World Business Council for Sustainable Development: WBCSD)と世界資源研究所(WorldResource Institute: WRI)により1998年に共同で設立され、温室効果ガス排出量の算定・報告をする際に用いられる各種基準(コーポレート基準、スコープ3基準、スコープ2ガイダンス等)を発出している。
この基準は、グローバル企業の気候変動対策に関する情報開示・評価の国際的なイニシアティブ(CDP、RE100、SBT 等)に用いられていることから、国際的なデファクトスタンダードとおり、企業活動報告、政府・地方自治体の排出量統計や、再エネ証書制度証書設計の基盤となっている。
現在、電力の脱炭素化を進める上で様々な課題が顕在化してきていることを背景として、GHGプロトコルの枠組みを定めるScope 1・2・3の既存3文書全ての抜本的な改訂作業が進められている。
その改訂は、企業や政府・地方自治体の報告にとどまらず、わが国における再エネ評価の枠組みに大きな影響を与えることが予想され、カーボンクレジット取引や再エネ発電・蓄電池投資、ひいては電力システムの在り様も変えてしまいかねない。
従って、GHG Protocol改訂の背景や内容を分析し、わが国の再エネ評価やカーボンクレジット取引・電力システムへの影響を評価し、そこに必要な技術や事業機会を展望することが喫緊の課題である。
そこで株式会社電力シェアリングでは、再エネアワリーマッチング研究所(RE Hourly Matching Institute)を設立し、これに関連する国連・欧米諸機関の議論に積極的に参画することで、一次情報に基づく様々な分析を行い、政府機関・自治体・企業(電力会社・炭素会計サービサー等を含め)に向けた情報発信や個別のアドバイザリーサービスを本格的に開始することとした。
日本経済・社会へのインパクト
GHGプロトコルScope2ガイダンス改訂の重要な柱は、①Hourly Matching手法の導入、➁追加性の担保、③証書の取り扱いの見直しである。
折しも、2024年1月に欧州連合(EU)議会を通過したいわゆるグリーンウオッシュを禁じるグリーンクレイム指令では、オフセット証書による商品・サービスの脱炭素主張が禁止された。今のところ電力オフセットへの言及はないが、「「温室効果ガス・オフセットを透明性のある方法で報告する:オフセットが温室効果ガスの排出「削減」なのか「除去」なのかを峻別して明示し、オフセットの質に関する情報を提供する」」としており、GHG Protocol Scope 2 ガイダンス改訂のねらいと一致する部分がある。
また、EUでは、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける新たな仕組みである国境炭素調整措置(CBAM)の導入も準備されている。
これらを勘案すれば、近未来において、あくまでも様々な仮定がシンクロナイズされて現実のものになった時の話ではあるが、GHGプロトコルScope 2ガイダンスに、再エネ取引でのHourly Matching手法が盛り込まれ、日本国内の諸制度がその基準に満たないと判断された場合、日本基準での再エネ電力を用いて生産された自動車や鉄鋼・食品などの製品が、欧州基準を満たさないグリーンウオッシュ品とみなされ、欧州への輸出を制限される可能性もあり得ると思料する。
また、GHG Protocol Scope 2 ガイダンス改訂の議論を主導する主体にも目を向ける必要がある。それは、当然のことながら、従来から環境分野で主体的な枠割を担ってきたCDP(Carbon Disclosure Projectは英国の非政府組織(NGO)であり、投資家、企業、国家、地域、都市が自らの環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを提供する)やI-RECなどの諸機関であるが、加えて、GoogleやMicrosoftなどのGAFAMの一角や、ブロックチェーン技術などを有する気候変動テックのPowerledger社などのDX技術を有する企業等も参画している。
安全保障の視点も含めて、日本の産官学もこの動きを注視しながら、積極的に基準作りやその適用に参画すべきであると考える。
当研究所は、一般にこの国外での動きに積極的に参画し、欧米の主要ステークホルダーとの緊密な関係を構築し、情報収集・分析を行い、それらの情報を当該ウエブサイトやウエビナー等で積極的に公開・発信している。
また、国内各企業・シンクタンク・環境報告や炭素会計サービスを手掛ける事業者や行政機関への個別のアドバイザリーサービスを提供しているところである。
(参考)GHGプロトコルについて
目的:オープンで包括的なプロセスを通じて、国際的に認められたGHG排出量の算定と報告の基準を開発し、その利用を促進することである。事業者、NGO、政府機関を含む様々な利害関係者が、算定及び報告の理論に裏打ちされた信頼性のあるGHGの評価方法の開発、全世界規模での運用からの情報の説明と報告、GHG排出量の管理及び削減のための効果的な戦略の構築、他の気候イニシアチブや報告基準を補完するGHGに関する情報の提供を支援することを目的としている。
運営者:1998年に世界環境経済人協議会(World Business Council for Sustainable Development: WBCSD)と世界資源研究所(WorldResource Institute: WRI)により共同で設立された。事業者、NGO、政府機関など多岐にわたる利害関係者の協力により作成され、GHG排出量の算定と報告に関する貴重な知識源として提供されている。
概要:GHGプロトコルは事業者の排出量の算定及び報告の基準を提供し、GHGプロトコルのウェブサイトで利用可能な多数のGHG計算ツールによって補完されている。これらの基準、ガイダンス、及びツールは、事業者や他の組織がGHGインベントリを開発し、GHGの影響を明確にし、GHG排出量の管理及び削減のための戦略を構築するのを助けている。