環境省ナッジ実証事業 ➍GXコミュニティナッジナッジ
環境省ナッジ実証事業 ➍GXコミュニティナッジナッジ
GHGガイダンスの排出量算定の改訂を先取りし、バーチャルグリッド(デュアルグリッド)特許技術の有効性を検証
デュアルグリッドの概要
GHG Protocol Scope 2 ガイダンス改訂の主要なテーマとなっている、ロケーション基準・マーケット基準両面における時間・地理粒度の向上に平仄を合わせ、分散型再エネ電力システムの構築を図るデュアルグリッド方式を開発した。
実存する送配電網(リアルグリッド)における火力発電も含めた電力需給の同時同量を維持しつつ、当該送配電網における限定された供給者と需要者の自発的な意思と選択により、需給の相互タイムシフトと、地域コミュニティ内での再エネ価値取引を行うことで、当事者内で再エネ電力需給の同時同量を達成(バーチャルグリッド)するデュアルグリッド(リアルとバーチャルの融合)を構築する。
国内ナッジ実証事業
各需要場所に設置されているスマートメータより時間帯別の電力消費量を遠隔・自動・リアルタイムで取得することで可能となる。また、プロシューマも含めた発電量も同様である。日本においては、2023年10月より第三者へのデータアクセスが可能になり、電力シェアリング共同事業者は既にそのサービスを用いてプロジェクトを開始している。
長野県塩尻市等の協力を得ながら、信州地域を中心とし中部電力管内全域をカバーするデュアルグリッドナッジ実証(GXコミュニティ実証)を進め、東北地方等での拡張も検討している。
電力システム:プル型からプッシュ型への転換
デュアルグリッドは、従来のような需要プル型から需要プッシュ型の電力システムの構築に転換するものである。
従来は、まず、火力発電所を建設し電力需要を喚起し、その後太陽光発電所を建設し再エネ電力需要を喚起する需要プル型のアプローチが取られていた。
しかしこの方式であると、いつどのくらいの需要が発生するか精緻に予測できないまま発電所を先に建設するので、需給のミスマッチが生じやすかった。特に、発電量の振幅が大きい再エネ発電を主流化する上での課題となり、結果として出力制御が頻拍する事態を招きやすい。
そこで、既存の火力発電主体の電力システムが構築されていることを前提として、先に需要を喚起し、時間帯・場所別に需給を一致させるよう心掛けながら、需要主導型(プッシュ型)で、太陽光発電を無理のない形で、徐々に導入し火力発電所を退役させる手法を開発した。
構築のステップ①:需給の相互追従へのタイムシフト(ロケーション基準)
デュアルグリッドの構築は、以下のステップを踏む。
まず、送配電網時間帯別CO2排出係数を算定し、これを需要者に可視化し、指標として、再エネ比率が高く送電網時間帯別排出係数の低い時間への電力消費のタイムシフト(昼シフト)を誘導する。これは、一般の消費者に加え、EVの充電者も同様であり、EV昼充電を促す。
各需要者の昼タイムシフトの実績を、需要者期間平均排出係数で評価する。評価手法としては、係数の絶対値・削減幅の過去実績との比較や、AI予測値との比較、標準値・平均値・他者との比較などがあり得る。
場合によっては、省エネJクレジットのように、標準を下回った分を価値として評価し、標準を上回った需要者との取引を促す、排出権取引のような手法も考えられる。これにより、特にEVの昼充電を促し、負荷の平準化に貢献する。
一方で、これと裏表の関係として、送配電網時間帯別CO2排出係数を、プロシューマ(供給需要者)を含めた発電者に可視化し、指標として、再エネ比率が低く送電網時間帯別排出係数の高い時間への発電のタイムシフト(夜シフト)を誘導する。これは、蓄電池の放充電でも同様で、夜放電を促す。
各発電者の夜タイムシフトの実績を、供給者期間平均排出(回避)係数で評価する。評価手法としては、係数の絶対値・削減幅の過去実績との比較や、AI予測値との比較、標準値・平均値・他者との比較などがあり得る。
その実績に応じてポイントなどで金銭的インセンティブやナッジモデルで非金銭的インセンティブを付与することで、行動変容を促す。
場合によっては、標準を上回った分を価値として評価し、標準を下回った発電者との取引を促す、排出権取引のような手法も考えられる。これにより、これにより、特に蓄電池の導入により、電力量の放充電時の値差や調整力市場での売却だけではなく、排出係数の放充電時の差分もマネタイズできれば、蓄電池投資の採算性が向上し、ストレージパリティの実現にも貢献できる。
この時、自身のスコアだけでなく、送配電網全体のスコアをリアルタイムでフィードバックされることで、個人の環境配慮行動とコミュニティ全体の環境配慮行動の成果が可視化され、「共通の目標を掲げ、みんなでその進捗状況を確かめながら、一緒に努力して、達成を目指す」特に日本が強い社会関係資本を基盤とした社会性・利他性に訴求するナッジモデルが有望である。
また、コミュニティに属する者同士(需要家同士、プロシューマ同士、あるいはその混合)でグループを結成し、グループ内での達成度や、グループ間でのランキングによる競争でゲーミフィケーション化するナッジモデルも有望である。
以上は、GHG Protocol Scope 2 ガイダンスのロケーション基準によるものである。
構築のステップ➁:アワリーマッチング取引(マーケット基準)
次のステップは、再エネ価値のアワリーマッチング取引である。
一般に電力取引は、再エネ証書取引とは別になされているから、まずはアンバンドルされた再エネ証書のアワリーマッチング取引を喚起する。
次に、バンドルされた再エネ証書あるいは再エネ電力それ自体のアワリーマッチングを喚起する。
電力システムは、その性格上、地域にあるものが同一の電力システムによる均一のサービスを強制的に受容せざるをえなかった。しかし、デュアルグリッド方式では、バーチャルグリッドへの参加・選択は、個人の自由意志に委ねているため、ナッジの原則にも合致している。
GHG Protocol Scope 2 ガイダンスでは追加性の担保が議論の俎上にある。この場合、特に新規投資の喚起を目的とした、電源運用開始時期の浅さを条件とする案が検討されているが、例えば、景観保護や防災などの観点から社会負荷や環境負荷を定量的に評価し、基準に見合った発電所のみで上記の排出係数の算定や、取引を行うこととすることも議論されてよい。
デジタル技術の進歩で、再エネの量だけではなく、質も精緻に把握できるようになっている。発電所の属性や、需要者との関係性を可視化することで、需要者と供給者の長期的な信頼関係に基づくWTPの向上(贔屓筋、あるいは支援のために、地域の匿名・顕名の発電者に、通常の購買額に上乗せした金額を支払う)やWTSの引き下げ(お得意様、あるいは支援のために地域の匿名・顕名の需要者に、通常の販売額から値引きする)ことの効果も考えられる。
つまり。「再エネならば何でもよい」フェイズから、GHG Protocol Scope 2 ガイダンスの改訂議論にあるように、「いつどこで発電したか?」が重要となり、さらには「誰がどのように発電したか?」も重要となることで、再エネ電力のコモディティから差別化商品・ブランド化への転換を図り、規模の効率が働かずに、大規模再エネにコスト優位性で劣後する分散型再エネシステムの商用化が視野に入る。
これは、「顔の見えない発電者」による信頼関係の弱さに起因する地域脱炭素化の阻害要因の解消へのツールとなり得る。
「もの消費」から「こと消費」への消費者のマインド変化が言われて久しいが、「再エネ電力」という時間・地理の一致が必要な財の特殊性を逆手に取って、「みんなで一緒に困難に立ち向かい努力して、その達成の喜びを分かち合う」といった、電力の財としての消費」を、「関係性の消費」に昇華させていく可能性も展望できる。
このようにタイムシフト(ロケーション基準)とアワリーマッチング取引(マーケット基準)を合わせて、全時間帯での地域再エネ自給率100%のマイクログリッドを完成させていく。
令和6年度以降実証事業の詳細
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